稲刈りの後、大量に発生する籾殻。その使い道に頭を悩ませている方も多いのではないでしょうか。
特に、家庭菜園や農業で畑の土壌改良に良いと耳にすることはあっても、具体的な活用方法が分からなかったり、本当に効果があるのか、あるいは何かデメリットはないのかと不安に感じたりすることもあるでしょう。
この記事では、そんな籾殻の使い道に関するあらゆる疑問を解消します。畑で籾殻を活用する際のメリットはもちろん、知っておくべきデメリットと、その対策法までを網羅的に解説。誰でも簡単に実践できる、効果的な土壌改良のテクニックをご紹介しますので、ぜひ最後までご覧ください。
- 籾殻の基本的な使い方と特徴
- 畑で籾殻を利用する際のメリットとデメリット
- 土壌改良で失敗しないための具体的な注意点
- 微生物を活用した効果的な籾殻の活用法
庭や畑だけじゃない籾殻の使い道

- 籾殻の使い道は生活の中でも役立つ
- 畑に籾殻をまく理由とは?
- もみ殻を土に混ぜるとどうなる?
- 知っておくべき籾殻の畑でのデメリット
- 籾殻を使うと虫がわくって本当?
- 畑で籾殻を入れすぎた場合のリスク
籾殻の使い道は生活の中でも役立つ
籾殻の使い道は、畑の土壌改良だけに留まりません。実は、私たちの生活の様々な場面で役立つ優れた資材です。
例えば、畜産農家では家畜の敷料として古くから利用されています。籾殻は吸湿性に優れているため、家畜の糞尿を吸収し、畜舎内を快適な状態に保つのに役立ちます。また、軽量で扱いやすいのもメリットの一つです。
家庭菜園やガーデニングでは、雑草抑制や土壌の保湿・保温を目的としたマルチング材として活用できます。土の表面を籾殻で覆うことで、太陽光を遮り雑草の発生を防ぎ、夏場の乾燥や冬場の凍結から作物の根を守る効果が期待できます。
さらに、そのユニークな特性を活かして、様々な製品にも応用されています。
籾殻から生まれるエコな製品
近年では、籾殻を圧縮して作られたエコな食器やプランター、猫のトイレ用の砂、さらには建材やバイオマス燃料(モミガライト)など、環境に配慮した製品開発も進んでいます。このように、籾殻は単なる農業副産物ではなく、アイデア次第で多様な価値を生み出すサステナブルな資源なのです。
畑に籾殻をまく理由とは?

畑に籾殻をまく最大の理由は、「土壌の物理性を改善する」ことにあります。多くの作物が育つ上で理想的な土は、水はけと水持ちが良く、空気を豊富に含んだ「団粒構造」の土です。しかし、長年耕作を続けていたり、粘土質だったりする畑では、土が固く締まってしまいがちです。
ここに籾殻をすき込むことで、以下のような効果が期待できます。
通気性と排水性の向上
籾殻は硬く、分解されにくい性質を持っています。この籾殻が土の粒子と粒子の間に物理的な隙間を作り出すことで、空気の通り道が確保され、通気性が大幅に向上します。また、水の通り道もできるため、水はけが良くなり、根腐れの防止に繋がります。
保水性の改善と団粒構造の促進
通気性・排水性と聞くと、水持ちが悪くなるイメージがあるかもしれません。しかし、籾殻自体が持つ無数の微細な孔(あな)は、適度な水分を保持する役割も果たします。さらに、籾殻がゆっくりと分解される過程で、土の中の微生物の活動が活発になります。この微生物が出す分泌物などが、土の粒子をくっつけて団粒構造の発達を促し、結果的に保水性の高いふかふかの土壌へと変化させてくれるのです。
つまり、籾殻は土に物理的な空間を作り、微生物の住処となることで、植物の根が伸びやすく、健康に育つための理想的な環境を整える手助けをしてくれる、というわけです。
もみ殻を土に混ぜるとどうなる?
もみ殻を土に混ぜ込むことで、土壌には物理的および生物的な変化が起こります。これを理解することで、より効果的な土づくりが可能になります。
まず、最も分かりやすい変化は土が「ふかふか」になることです。前述の通り、硬い籾殻が土の中に均一に混ざることで、土が固く締まるのを防ぎます。これにより、作物の根が地中深くまで張りやすくなり、水や養分を効率よく吸収できるようになります。これは、パーライトなどの土壌改良資材と同じような物理的な効果と言えるでしょう。
しかし、籾殻の本当の価値は、土壌微生物の活動を活性化させる点にあります。籾殻の内部は多孔質構造になっており、これは微生物たちにとって絶好の住処となります。微生物が籾殻を住処とし、ゆっくりと分解していく過程で、土壌の団粒化が促進されます。生の籾殻は分解に2~3年と長い時間がかかりますが、このゆっくりとした分解が、長期的に安定した土壌環境を作り出す上で非常に重要なのです。
もみ殻を混ぜた土の変化まとめ
- 物理的変化:土が固まるのを防ぎ、通気性・排水性が向上する。
- 生物的変化:微生物の住処となり、その活動を促進。長期的に土の団粒構造化を進める。
このように、もみ殻は即効性のある肥料とは異なり、時間をかけて土そのものを根本から育てていくための優れた土台となります。
知っておくべき籾殻の畑でのデメリット

多くのメリットがある一方で、生の籾殻を畑で使う際には注意すべきデメリットも存在します。これを理解せずに使用すると、かえって作物の生育を妨げてしまう可能性があります。
最も注意が必要なのが「窒素飢餓(ちっそきが)」です。籾殻は炭素(C)を多く含み、窒素(N)をほとんど含んでいません。この炭素と窒素の比率を「C/N比(炭素率)」と呼びます。
窒素飢餓が起こるメカニズム
土の中の微生物が有機物(この場合は籾殻)を分解する際、エネルギー源として炭素を、そして自身の体を作るために窒素を必要とします。籾殻のようにC/N比が非常に高い(炭素が多く窒素が少ない)資材が土に投入されると、微生物は籾殻の豊富な炭素を分解するために、畑の土の中に元々あった窒素を急激に消費してしまいます。その結果、作物が吸収すべき窒素が不足し、葉が黄色くなるなどの生育不良を引き起こすのです。これが窒素飢餓です。
また、生の籾殻は表面がワックス成分で覆われているため水を弾きやすく、土にすき込んだ直後は土壌が乾燥しやすくなる傾向があります。水はけの悪い土壌には有効ですが、元々水はけの良い畑では保水性が低下しすぎるリスクがあるため、散水管理に注意が必要です。
これらのデメリットを理解し、対策を講じることが、籾殻を有効活用するための鍵となります。
項目 | 生の籾殻 | 発酵済み籾殻(堆肥) |
---|---|---|
分解速度 | 遅い(約2~3年) | 速い |
窒素飢餓リスク | 高い | 低い |
土への効果 | 物理性改善が主 | 物理性・生物性・化学性の総合的改善 |
使い方 | 少量ずつ、窒素分を補いながら使用 | 完熟していれば比較的安心して使用可能 |
籾殻を使うと虫がわくって本当?
「籾殻を畑に置くと虫がわく」という話を聞いて、使用をためらっている方もいるかもしれません。この点は、籾殻の状態や使い方によって答えが変わります。
結論から言うと、生の籾殻を長期間、畑の隅に山積みにしておくと、虫の住処になる可能性はあります。籾殻の山は、保温性と保湿性に優れ、隙間も多いため、ワラジムシやダンゴムシ、ナメクジといった多湿な環境を好む虫や、カメムシなどの越冬場所として最適な環境を提供してしまうことがあります。これらが直接的に大きな害をもたらすことは少ないですが、見た目の不快感や、特定の害虫の温床になるリスクは否定できません。
一方で、籾殻を燻して炭にした「籾殻くん炭」には、アブラムシなどを寄せ付けにくくする忌避効果があると言われています。これはくん炭特有の匂いや、アルカリ性の性質によるものと考えられています。土の表面に薄くまくことで、一定の害虫予防効果が期待できるのです。
虫をわかせないためのポイント
虫の発生を避けるためには、生の籾殻を長期間放置せず、速やかに土にすき込むことが重要です。また、ただすき込むだけでなく、後述する微生物資材などを使って発酵を促し、堆肥化することで、虫が寄り付きにくい環境を作ることができます。
畑で籾殻を入れすぎた場合のリスク
「土に良いものならたくさん入れた方が効果があるだろう」と考えてしまいがちですが、籾殻に関してはその考えは当てはまりません。畑に籾殻を入れすぎることは、いくつかの深刻なリスクを伴います。
まず、前述した「窒素飢餓」がより深刻なレベルで発生する可能性が高まります。大量の籾殻を分解するために、土壌中の窒素が微生物によって過剰に奪われ、作物が全く育たないという事態に陥りかねません。
次に、土壌の過乾燥です。籾殻を大量に投入すると、土の隙間が大きくなりすぎて、水はけが良くなりすぎます。特に砂質の畑など、もともと乾燥しやすい土壌では、水持ちが極端に悪化し、頻繁な水やりが必要になったり、干ばつの被害を受けやすくなったりします。
さらに、籾殻は非常に分解が遅い資材です。一度に大量にすき込んでしまうと、何年も土の中でゴロゴロとしたまま残り続け、土壌環境が安定するまでに長い時間がかかってしまいます。その間、作物の根張りが悪くなるなど、栽培に悪影響が及ぶことも考えられます。
籾殻の適正な投入量
初めて籾殻を土壌改良に使う場合は、土全体の容量の1割程度を目安に、少量から試してみることを強くおすすめします。畑の状態をよく観察しながら、数年かけて少しずつ投入量を調整していくのが失敗しないための秘訣です。何事も「過ぎたるは猶及ばざるが如し」です。
土壌改良に活かす籾殻の使い道

- 籾殻を畑にまく際の注意点
- 籾殻を土に混ぜる正しい方法
- 微生物が鍵となる籾殻の畑での使い方
- 最適な籾殻の使い道を見つけよう
籾殻を畑にまく際の注意点
生の籾殻を畑にまいて土壌改良に活かすためには、これまでに述べたデメリットを理解し、適切な対策を講じることが不可欠です。ただやみくもにまくだけでは、期待した効果が得られないばかりか、逆効果になることもあります。
まず最も重要な注意点は、一度に大量に投入しないことです。土壌全体の1~2割程度を目安にし、特に初めて使用する場合は、ごく少量から試して土壌の変化を観察しましょう。
次に、窒素飢餓を防ぐために窒素分を補うことが重要です。生の籾殻をすき込む際には、必ず窒素分が豊富な資材と一緒に施用してください。
籾殻と一緒に使うと良い資材
- 米ぬか:窒素やリン酸、ミネラルが豊富で、微生物の栄養源となります。
- 鶏糞や牛糞などの家畜糞堆肥:窒素分を多く含み、発酵を促進します。
- 油かす:代表的な有機質の窒素肥料です。
これらの資材と籾殻を一緒にすき込むことで、微生物が籾殻を分解する際に必要な窒素を補い、窒素飢餓のリスクを大幅に軽減できます。
また、生の籾殻は水を弾くため、すき込んだ直後は土が乾燥しやすくなります。作物を植え付けるまでの間は、畑の乾燥状態に注意し、必要に応じて散水を行うなどの管理が必要です。
籾殻を土に混ぜる正しい方法

籾殻を土に混ぜる際の「正しい方法」とは、生のまま投入するのではなく、あらかじめ微生物の力を借りて発酵・分解を進めてから使うことです。これにより、窒素飢餓や分解の遅さといった生の籾殻が持つデメリットを解消し、そのメリットを最大限に引き出すことができます。
具体的には、籾殻を使って「堆肥」を作るのが最も効果的です。
作り方は様々ですが、基本的な考え方は同じです。まず、籾殻(炭素源)に、米ぬかや家畜糞堆肥などの窒素源と、適度な水分を加えます。そして、これを積み上げて定期的に切り返し(空気を送り込む作業)、微生物の力で発酵させます。
この発酵プロセスをより効率的かつ確実に行うために、市販の微生物資材を活用するのがおすすめです。
「堆肥作りは場所も取るし時間もかかって大変そう…」と感じるかもしれません。しかし、微生物資材をうまく使えば、畑の隅のスペースで、比較的短期間に質の良い籾殻堆肥を作ることが可能です。手間をかける価値は十分にありますよ。
完成した籾殻堆肥は、C/N比のバランスが整っているため窒素飢餓の心配がなく、土にすき込めばすぐに土壌改良効果を発揮してくれます。これが、籾殻のポテンシャルを最大限に活かすための最も確実で正しい使い方と言えるでしょう。
微生物が鍵となる籾殻の畑での使い方

籾殻のデメリットを克服し、畑で真価を発揮させるための鍵は、「微生物」にあります。生の籾殻をただ土に入れるのではなく、有用な微生物の働きを積極的に利用することで、理想的な土壌改良資材へと生まれ変わらせることができるのです。
その代表的な方法が、「カルスNC-R」や「EM菌」といった微生物資材を活用することです。
カルスNC-Rの活用
カルスNC-Rは、多様な微生物が含まれた土壌改良資材です。生の有機物(籾殻など)と一緒に土にすき込むことで、土壌中で有機物を急速に分解・発酵させ、堆肥化を促進します。これにより、面倒な切り返し作業なしで、畑の中で堆肥作りができてしまうのが大きな特徴です。窒素飢餓のリスクを抑えつつ、短期間でふかふかの土を作ることが可能になります。
EM菌の活用
EM菌(有用微生物群)は、乳酸菌や酵母菌、光合成細菌など、複数の有用な微生物を組み合わせた資材です。籾殻や米ぬかなどと混ぜて発酵させることで、「EMぼかし肥料」を作ることができます。このぼかし肥料は、土壌の微生物相を豊かにし、病害虫に強い健康な土壌環境を育む助けとなります。
アーバスキュラー菌根菌との相性も抜群
籾殻を炭化させた「くん炭」は、植物のリン酸吸収を助けるアーバスキュラー菌根菌の絶好の住処になることが知られています。籾殻を発酵させて土壌環境を整えた上で、菌根菌資材などを活用することで、さらなる相乗効果が期待できます。これも微生物の力を借りた高度な活用法の一つです。
このように、微生物の力を借りることで、籾殻は単なる土壌改良材から、土の生命力を高めるための強力なパートナーへと進化します。少しの知識と手間で、その効果を飛躍的に高めることができるのです。
最適な籾殻の使い道を見つけよう
この記事では、籾殻の様々な使い道、特に畑での土壌改良に焦点を当てて詳しく解説してきました。最後に、記事全体の要点をリスト形式で振り返ります。
- 籾殻は稲作の過程で大量に発生する農業副産物
- かつて行われた野焼きによる処分は現在法律で禁止されている
- 主な使い道は畑の土壌改良材や家畜の敷料、マルチング材など
- 土の通気性や排水性を高め、団粒構造を促進する効果がある
- 生のまま大量に使うと「窒素飢餓」を引き起こすリスクがある
- 原因は炭素分が多く窒素分が少ない「C/N比」の高さにある
- 分解に時間がかかり、入れすぎると土の乾燥を招くことも
- 生の籾殻を山積みにすると虫の住処になる可能性がある
- くん炭にするとアブラムシなどの忌避効果が期待できる
- デメリットを克服する鍵は「微生物」による発酵
- 生のまま使う際は窒素分(米ぬか等)を補うことが重要
- カルスNC-Rを使えば畑の中で簡単に堆肥化できる
- EM菌を使って「ぼかし肥料」を作るのも効果的な方法
- 発酵させてから使うことで窒素飢餓を防ぎ、即効性が高まる
- 正しい知識を身につけ、あなたの畑に合った最適な籾殻の使い道を見つけましょう
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